懐中のトッケイ

わたしはここでかわいていく

約束は赤い窓辺で

一通を待つのがつらい人がいる。 一通が来るのもつらい人がいる。 里帰りの季節だ。 学生は言わずもがな、社会人はお盆に連休を合わせて、地元へ帰って家族と過ごす人が多かろう。それに伴う墓参りやら親戚回り、それだけならいいものの、やれ子供だ結婚だと…

メリッサが笑うとき

彼女と初めて出会ったのは、どこかの静かな公園だった。 中学生の時分である。僕は学校の遠足の班行動を途中で抜け出した。なにも、特に行く宛があったわけではない。数少ない友人と呼べそうな者たちの班からあぶれ、無理やり他の人間と班を組まされていた僕…

モノノケダンス

自分は正常だなんて思い始めたときから、人は狂い始めるのだ。 動物というのはいいものだ。なにせよく動く。 動物というのはいいものだ。ともすればかわいい。 しかし我々はどうもこの動物という存在を指す時に、我々を抜いて考えてしまっていることが多い。…

連作30首『芳子(よしこ)のあと』

電話には出られずメールにて知りぬ金曜の朝祖母頓死せる 肉親の訃報を開きし親指にぞぶりぞぶりと血は脈打てり 折り返し掛ける電話に母はまたなんと明るい声で出るのか 通夜は土曜、式は日曜どこそこで、やや早口で伝えくる母 落ち着くにひとりフロアをうろ…

絶望という名の地下鉄

この箱は、わたしをいったい、どこへ連れて行こうというのだろうか。 ドアが閉まり、わたしの風景の一切は闇に掠め取られた。 これは都会と田舎をひとたび行き来したことのある人ならわかることだが、電車というのはよいものである。自分で運転しなくても、…

連作15首「稽古の納め」

※ちょっと神道関係の言葉が入るので、意味を調べてもらうとより結構です。 ――――――――――― 一年を稽古で締める数寄者の二十余名の顔ぶれを見る 大祓を上げをる声に師の若き神職のころを思ひつつゐる 柏手を打てば神事はやみゆきて一礼の間に指に入る熱 病みてな…

連作50首『八畳魔のかんぴんたん』

5月に角川短歌賞に応募した。ひーこら言って作った50首。 数ヶ月前のことなのにもうずっと前に思える。今見返したって拙い歌。 でも確かに、あのときのわたしのいちばんを出した。 もちろん結果はなしのつぶてでかすりもしないが、きっとこれでよかったのだ…

飴町ゆゆき自選50首

2月に短歌を始めて半年が経った。 うたの日で題詠歌会に参加すること3ヶ月余り。6月からはTwitterでフォロワーから題を募っての作歌が多くなった。その間も月1回、名古屋で常時10数名規模の歌会(大辻隆弘氏主宰:オアシス歌話会)に参加させてもらうなど。 そ…

鉄風 鋭くなって

鍛えよ。 鍛えねばならない。そうした観念がわたしには数多くある。 頭を鍛えよ。わたしにはまだ知らないものが山とある。何を知らないのかもまだ知ることができていない。 目を鍛えよ。わたしは何を見るか。何が見えているか。見たいように見るだけでは、あ…

ピクシーかよこ

ピクシーかよこ かよこは妖精である 四頭身ぐらいの頭でっかちで 大きなつば広の帽子をかぶっている べつに羽が生えているわけではないのだけれど 彼女が通ったあとは きらきらとまぶしい うすい空色のふっくらしたワンピースの内側から あれは 鱗粉がこぼれ…

Ink or Sink

ピータンを知っているだろうか。漢字では「皮蛋」と書く。 これは中国料理の前菜のひとつで、「蛋」という字は蛋白質の蛋、つまり卵という意味がある。ピータンとは卵料理のひとつである。 しかしあれを料理、と言っていいのかどうかは、いまひとつ疑問の残…

at the BLACK HOLE

穴がある。 目の前に大きな穴がある。 困ったことに人間は、それを気にせずにはいられない生き物だ。 思えば小惑星がどっかんどっかん衝突してできあがったらしい地球という惑星に住んでいる以上、その誕生の舞台そのものが穴だらけで生まれてきたのだから、…