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懐中のトッケイ

わたしはここでかわいていく

連作30首『芳子(よしこ)のあと』

短歌

電話には出られずメールにて知りぬ金曜の朝祖母頓死せる

 

肉親の訃報を開きし親指にぞぶりぞぶりと血は脈打てり

 

折り返し掛ける電話に母はまたなんと明るい声で出るのか

 

通夜は土曜、式は日曜どこそこで、やや早口で伝えくる母

 

落ち着くにひとりフロアをうろつきぬやや席に着きまたうろつきぬ

 

引き出しの底より出でし処務規定引けば忌引きは三日とあらず

 

見透かさる ささやかながら見過ごせぬ額を挙げをる見舞金表

 

母を経て父の言伝受け取りぬ駆け戻るには及ばぬが、来い

 

幾たびか母とやりとり重ねをりつひには父の声聞けず夜

 

通夜の朝も車は動きパンは売れわたしは職場でうごめいていた

 

 

 

先駆けた兄がいとまを持て余しギターを触ってくれていたなら

 

ジャンクション近くの片側三車線が寄越す余白を縫うようにゆく

 

駐車して襟を正すもどの顔が正解なのか 答えよミラー

 

久しぶりに会うた兄らは髪形も毛色もスーツもまるで似合わぬ

 

存外に笑顔の見ゆる葬儀場にてやうやう表情筋をほどけり

 

参列者カードを受け取る 見も知らぬこのひとも親戚というから

 

オヒネリじゃなくてオメモジでもなくてなんだかもにょもにょ言って手渡す

(おっ)※ルビ

和尚さんのお経はあまりうまくないと叔母らは助六寿司を食らひて

 

棺追ひ控えに祖母の兄の来て和尚の上ぐるでなき経を上ぐ

 

火の番を父より任されし我ら騒げど電子線香はゆらがず

 

 

 

賽の五のごとくに僧の並び居り「ライブみたい」と兄のささめく

 

持たされし勤行集になき経に親族の指先は惑ひて

 

厄介者の記憶は思い出に変はりみなさめざめと泣く昨日今日

 

ひが泣きはできぬ 明るく逝くやうに一句を祖母の足元に添ゆ

 

遺書にありし戒名は祖父よりも高く苦笑せる父 出棺のとき

 

見納めて棺は窯に入りたり もう飯を食えというのか、そうか

 

この部位は、など焼肉じゃあるまいしざっくと細かくされていく祖母

 

一膳が消え一室が空になり仏間にカラー写真が一葉

 

このたびはどこそこからのお気持ちのほどもさやけきエクセルファイル

 

初盆も帰らぬ不孝 鹿児島の海にカメラは取り上げられつ